"密"な契約は"蜜"な束縛へと変化する
彼との秘密
樋口さんとお付き合いをするようになって、二週間が過ぎた。お弁当を仕事帰りに買うのではなく、現在は夕飯を食べに来ている。

親公認の彼氏である。

弁当屋は以前から日曜日が定休日であり、樋口さんとデートに行くのも丁度良いと思うのだが、なかなか予定が合わずに丸一日かけての初デートはしていない。

樋口さんは美術部の顧問の他に、他の部活動の指導員にも借り出される為、日曜日も休めていない日がある。指導員と言っても、顧問の先生が大会等に行けない場合の付き添いらしい。それに土曜日は土曜日で、美術部は午前中だけ部活をする日があるらしい。

「萌実さんも明日は仕事なのに、夕方からお誘いしてすみません」

「いえ、夜の外食は久しぶりなので楽しみです」

樋口さんは顧問の先生が急用が出来たらしく、バスケットボール部の練習試合の付き添いに借り出され、16時過ぎに私の自宅に来た。

今日は朝から両親も舞台を見る為に出かけていて、私は樋口さんからの連絡をずっと自宅で待っていただけの一日。連絡が来るまでずっとソワソワしたり、無駄に動き回り、落ち着かなかった。

「萌実さんは何が食べたいですか?」

「私は家では和食ばかりなので、和食じゃないのが良いです」

「ご両親の作って下さる和食、本当に美味しいですよね。最近は毎日、美味しいご飯を頂けてありがたいです。……萌実さんは和食以外を希望するなら、イタリアンとかですか?」

「パスタとかグラタンとか大好きです。樋口さんはどうですか?」

「私もイタリアンは好きですよ。……と言うか、嫌いなものはほぼありません。何でも美味しく頂きます」

樋口さんと過ごす時間はゆっくりと進んでいく。まるで、お見合い同士みたいに手探りでお互いの好きなものを探り当てる。
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