桜の花びらのむこうの青
芳醇な香りが温かい湯気となって鼻腔をかすめ、香りそのままの味わい深いダージリンが喉元を流れていった。

このダージリンそのものはとてもおいしいんだけど、若干物足りない感があるのはミルクを入れてないせい?やはり頼めばよかったと後悔する。

淡いピンクの花が散りばめられた品のいい絵柄のティーカップを口元からそっと離すと、テーブルの上のソーサーに置いた。


私の対面の席は空いたまま。

彼は来るだろうか?

今まで一度だって待ち合わせの時間に間に合ったことなんてなかったもの。

ふぅーと長めの息を吐くと、肩ひじをつく。


このイングリッシュカフェは彼と初めて待ち合わせた場所だった。

二人掛けのテーブルとイスが五つほど並んだ小さなカフェ。

アンティーク家具が狭い店内に調和よく配置され、まるで本場のイングランドの一軒家にいるような錯覚に陥る。

たくさんある格子窓から薄暗い店内に差し込む光はとても温かく、緊張で強張った私をリラックスさせてくれた。

その時、私の右肩に面した格子窓がカタンと揺れる。

音の方に視線だけ向けると、風に舞ってどこからかたどり着いた一枚の桜の花びらがガラス窓の向うにペタンと張り付いていた。
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