婚約者の執愛
悪魔
「舞凛ちゃん?」
次の講義室に移動する途中、男性に声をかけられた舞凛。

「え?稲田(いなだ)…先輩…?こんにちは!」
「久しぶりだね!」
「はい////」
稲田は舞凛の高校からの先輩で、憧れの人だ。
高校の時から憧れていて、大学も稲田を追って受験したくらいだ。

「舞凛様、早く行きましょう」
「あ、山野さんすみません。
少しだけ……」
「ダメです!」
「え……」

「警告…しましたよね?」

「あ……そ、それは、わかってます」
山野の鋭い瞳に、思わず目をそらし呟く。

「失礼します!」
山野が稲田に言って、舞凛の手を引いた。


「山野さん!お願いします!少しだけなので!」
「………」
「━━━━山野…さ…」
舞凛に向き直る、山野。
とても、冷たい目をしている。

「察するところ、舞凛様の好きな方とかですよね?」

「え……あ…は、はい…まぁ…」
「元彼とかですか?」
「ま、まさか!私なんかが……」

「そうですか……
その、好きな方がいなくなりますよ?」

「え━━━━」
「だから“その方の為にも”やめましょう。
少しだけなんて、律希様には通用しません」

「は、はい…」
“稲田の為”と言われると、受け入れるしかない。



舞凛は、講義を受けながら高校の時のことを思い出していた━━━━━━━━

『これ、君の?』
高校入学して、なかなかクラスに馴染めなかった舞凛。
昼休みはいつも、一人で中庭の人気のない木陰で弁当を食べていた。

そんな時に、突然稲田に声をかけられたのだ。

『あ、私の箸…』
『やっぱり…!
よく、ここにいるよね?君』
『え?』
『俺さ。
この上の空き教室から、見てたんだ』

『え……』
『上の空き教室って、穴場でさ!
俺の秘密の部屋!
……なんっつって!(笑)』

『フフ…』
『あ、やっと見れた……』
『え?』

『………ずっと、笑顔見たいなって思ってたんだ』

それから、昼休みは木陰でよく話すようになった二人。
それ以上関係が進展することがなかったが、舞凛にとって、とても大切な思い出だ。



その日の夕食中━━━━━━

「━━━━━凛?」
「………」
「舞凛!!」

「あ、は、はい!」

「何を考えてるの?」
「いえ…何も……」

「嘘だ!僕の話、聞いてなかったでしょ?」

「え?」

「僕が今話したこと、言って?」
「え……」
(ヤバい…聞いてなかった……)


「………ごめんなさい。聞いていませんでした」
「やっぱり……」

「ごめんなさい…!」
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