赤ちゃんを授かったら、一途な御曹司に執着溺愛されました


ちなみに、私も匡さんしか恋愛経験がなく、議論は早々に詰み、焼き菓子を持ってきてくれた滝さんの『恋ですか? そうですね、あまり手段は考えずに自分の手で略奪してこそかなって思っています』という、おそらく間違った答えで幕が閉じた。

『なんだ、じゃあ麻里奈が合ってるんじゃん』という着地点は多分違うと思うのだけれど……なにぶん、経験がない以上反論もできない。

ついでに言うと、〝少し生意気に〟作戦もうまくいっていない。
あれ以来、試そう試そうとは思っているのだけれど、匡さんを前にしたらわがままなんて言えないし生意気に立てつくなんて以ての外だ。

昔の自分という壁に立ちはだかれるなんて思ってもみなかった。

「ああ、でもそういえば俺、実際に見たことあったな。匡さんが美女と並んでるところ」
「えっ」

急に爆弾を落としてきた相葉くんを勢いよく見上げる。
彼は平然とした顔で枝を専用のハサミでチョキチョキと整えていた。

「もう数年前だったと思いますけど、カフェでたまたま。向かい合って座ってたし、お互い飲み物もあったから一方的に誘惑されてたって感じでもなかったかな。相手はパンツスーツに黒髪ストレートで、背中の真ん中くらいまでのロングだったと思います。髪なげぇなって印象的だったから」

シマトネリコを見たまま「ああ、長さだったら美織さんと同じくらいですね」と言った相葉くんが続ける。


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