赤ちゃんを授かったら、一途な御曹司に執着溺愛されました


「ずっと、感情が欠乏しているのだと思っていた。誰に想いを寄せられても、両親が離婚しても気持ちはまったく揺れなかったし、充実感も達成感も感じたことがなかった。別にそれでもいいとは思っていた。父親があんな陽気な人間だから、同じように物事を感じたいと思わなくもなかったが、持って生まれた性格は仕方ない」

そこに不満を持っていたわけではない。
生活に支障をきたしていたわけでもなく、むしろこれから歩む道を思えば、ドライな性格の方がいいとも考えていたほどだった。

冷めていて可愛げのない子どもだったと、自分でも思う。

同年代の友達とは一緒にいても空気が合わず、家庭教師としてきていた大学生の教師と話している時間の方が落ち着くような、そんな小学生だった。

おそらく周りからも感情の見えないつまらない人間だと思われていただろう。
……でも。

「覚えていないと思うが、俺が初めて実織に会ったのは、おまえが生まれて一カ月と経たない頃だった。小説やテレビで見たのと同じように、俺が差し出した指を必死に握り返す姿に……初めて胸が震えた。ただそれだけのことで感情が生まれて溢れた自分にまず驚いたし、感動もした」

決して強い力ではなかった。
まだしわくちゃの手で、か弱い力で、一生懸命握りしめてくる美織に、どうしようもなく胸があたたかくなったのは、今でも鮮明に覚えている。

俺が八歳かそこらの頃だ。
目だってまだ開かないのに、触れるものを掴んで離そうとしない姿に感動した。


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