没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~
『そうだ。兄上はわしを恨むような狭量な男ではなかった。いつも温かく寛大で、その優しさゆえに脆いところもある。わしはいつか王になる兄を支えようと幼い頃から勉学に励み、しかし逆に励まされ、わしら兄弟はいつも助け合って生きてきたんだ……』

子供の頃の思い出をいくつか語ってくれた国王は、最後には雨上がりの空のような清々しい顔でこう言ってくれた。

『お前たちの結婚を許そう。ジェラールのもうひとつの頼みも、前向きに検討する』

ジェラールの頼みとは、レオポルド派の貴族を政界に戻すというものだ。

すべてがいい方に向かったのはジェラールのおかげで、オデットは頼もしく紅茶を飲む恋人を見つめる。

「遺書はないと言われたら、私はそうなんだと思うだけでした。ガレさんが持っていることまで突き止めて説得した殿下を心から尊敬します」

すると紅茶のカップを置いたジェラールがウインクをくれる。

「尊敬か。嬉しいけど愛も欲しい。俺の唇にキスを」

右を向けば窓があり、誰に見られるかもわからない。

来客だってあるかもしれず、恥ずかしがり屋のオデットには無理な要求である。

「あ、あの、今は駄目です」

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