契約夫婦を解消したはずなのに、凄腕パイロットは私を捕らえて離さない
 そっか、さっき誠吾さんが言っていた『俺にだって苦手なもののひとつやふたつくらいはある。そういうの、今後はちゃんと覚えてくれ』って言うのは、同僚として今後付き合っていくうえで覚えてほしいってことだったんだ。

 とくに深い意味なんてなかったのに、ひとりで焦っちゃってバカみたいだ。

 今はまだ誠吾さんは再婚していなかったけど、この先のことはわからない。いつかは愛する人と家庭を持つだろうし、本当の愛妻家になる日がくるかもしれない。

 だけどその相手がいない今は、同僚として彼と親しくなってもいいかな? だって私、誠吾さんのことなにも知らなかったから。

 もちろんそれは夫婦といってもたった三ヶ月間のことだったし、知らなくて当然だと思う。そうわかっているけど、さっき誠吾さんの意外な一面を知って、もっと彼のことを知りたいと思ったんだ。

「約束だからな? たまにはこうして食事に行こう。うまいものをごちそうしてやる」

「言いましたね? 約束ですよ」

「あぁ、わかったよ。じゃあ今度は俺と離婚してからどんなふうに暮らしてきたのか、全部教えてくれ」

「お母さんから聞いていたのに?」

 頻繁に連絡を取って聞いていたんだよね? それなのに私の口からまた話す必要がある?

 小首を傾げた私に誠吾さんは目を細めた。

「俺は凪咲の口から直接聞きたいんだ。いいな? 約束だぞ」

 そう言って優しく微笑む彼に胸が高鳴る。

「わ、わかりました」

「よし」

 なにこれ。どうして誠吾さんの優しい顔を見ただけで胸が苦しくなるの?

 理解できない感情に戸惑う自分がいた。
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