契約同居と愛情ご飯~統括部長の溺愛独占欲~
トマトのゆくえ
 そんなことがあった翌日、月曜日。夕方。
 鈴は明るい気持ちで天堂のマンションを訪れていた。勿論、手には昨日の買い出し食品を提げて、である。
 それとは別にトマトの袋を持っていた。
 昨日、あのお店で取締役と言っていた男性にもらったもの。新鮮なうちに使いたいと思って。
 鼻歌を歌いつつ、大きなシステムキッチンで夏野菜のパスタを作った。
 ズッキーニとトマトをソテーして、パスタを茹でて、そこへオイルサーディンを入れて和えて……。ふわりとにんにくの良い香りが漂った。
 最後にはネギを刻んで、これは食べる前にかけてもらえるように小皿に入れた。
 次に作ったのはサラダ。トマトサラダである。
 なにしろトマトはたくさんある。昨日の男性のお言葉に甘えて、鈴の家でも少しもらってしまったが、昨日の買い物はこの家の夕食のためのものだった。この家でのご飯にも使ったほうがいいに決まっている。
 なので、トマトのひとつは夏野菜のパスタに使い、もうひとつはトマトサラダに。
 トマトを切って、玉ねぎを刻んで、ちょっとのパセリなども彩りのために刻んで。
 オリーブオイル、塩コショウ、オイルサーディンから少々拝借した油で隠し味。
 シンプルながら、夏らしいサラダが出来上がった。
 あとはコンソメスープを簡単に作って、月曜日の夕食は完成した。
 トマトをたっぷり使ったので、赤が多かった。明るくておいしそう、と鈴は満足する。
 食べ方を書いたメモを残すときに、ちょっと考えた。あまりにトマトばかりだと思われないだろうかと。
 よって、少し書き足した。

『新鮮なトマトをたくさんいただきました』

 天堂さん、トマト苦手じゃないといいけどな。
 今まで使ったときも特になにもなかったから、大丈夫だと思うけど。
 鈴は少しの心配をしつつも、夕食を冷蔵庫に入れて、マンションから帰った。
 その翌日。
 夕方、同じく夕食作りにマンションを訪れると、そこにはメモが置いてあった。

『トマト、おいしかったです』

 それだけ。ひとことだけ。
 でもそれは、はっきりとした『鈴の料理を気に入ってくれた』という返事であった。
< 15 / 105 >

この作品をシェア

pagetop