契約同居と愛情ご飯~統括部長の溺愛独占欲~
映画と初めてのキス
「この映画、見たことあるか」
 天堂はなにも気にしていないという声音でそんなことを聞いてきた。
 鈴から手は離してくれなかったけれど。
 鈴はそわそわしつつも「いえ」と答える。見たところ、アクションものらしいが、本当に見たことがなかったので。
「そうか。女はこういうもの、好まないか」
「あ、いえ……そう、ですかね……」
 確かに女性がよく好むのは、恋愛ものとか、あるいはファンタジーとか……そういうものだろうけれど。
 はっきりそう言うのも失礼なのか、なんて思ってしまって、やはり鈴の返事は濁ってしまった。
「なんだ、自分のことじゃないか」
 鈴の答えはどれもあいまいになってしまっただろうに、天堂はむしろ目元を緩めたのだった。
「好きなひともいるかと、思いますから」
 そんな会話がされる。まったく普通であった。
 雇い主の天堂とこんなふうに、密着して見ているのはだいぶ信じられないが、会話内容はとりあえず、普通であった。
 鈴は首をひねってしまうような出来事ではあるけれど。
 天堂は一体どういうつもりなのだろうか……?
 家族や同居人がいないから、話し相手が欲しかったとか?
 そんなふうに考えてしまった鈴だったが、それはだいぶ楽観的な考えだったと、数分後に思い知ることになる。
 映画はだいぶ進んでいて、多分半分は越しただろうという様子であった。だが鈴はだんだん居心地が悪くなってきた。
 なにしろ、映画の中では主人公の男性と、ヒロインの女性が抱き合っていたのだから。恋人未満、という関係なのだが、きっとこのシーンでそれは変わるのだろうと思わされた。
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