契約同居と愛情ご飯~統括部長の溺愛独占欲~
恋人ができました
 週が明けて、月曜日。
 今日は歩美に報告があった。
 すなわち、ここまで散々濁していた、というか、自分でもよくわからずにいた、天堂との関係が本当に『彼氏』になったことである。
 ランチは今日、部署ですることになっていたので、定時後に少しだけお茶をした。このあとスーパーに寄って、食材を買って、家で夕ご飯を作るのだから、1時間だけ。
 これからも今まで通り、家でご飯を作るのだ。それが自分の仕事であるのだし、家賃代わりでもある。
 でも、それだけではない。
 今は、仕事の気持ちだけではなく、天堂にご飯を作ってあげたいのだ。
 より、喜んでもらえるように。
 より、おいしく食べてもらえるように。
 料理自体はなにも変わらないだろう。急に腕前が上がるはずもないのだから。
 でも中にこもる気持ちは変わる。
 依頼主に対する、丁寧な気持ちは前からあるけれど、これからはそこに、『特別なひと』に対する『特別な想い』がこもるのである。それはとても素敵なこと。
「へぇ! 良かったじゃん!」
 会社近くのカフェでアイスティーを前にして、ストローを咥えつつ、歩美は喜んでくれた。
 「抜け駆け」なんて、ちょっと膨れてみせたりするくせに、優しいのだ。先日の首のキスマークについて教えてくれたことについても同じ。
 こういう優しい友達がいるのも幸せなことだと鈴は思い、アイスティーにとろっと甘い、ガムシロップを追加した。
「自分でも『よくわからなかった』なんて、結構ニブかったんだね、鈴は。一緒に住んでたのにさ」
 そこについてはからかわれてしまって、鈴はちょっと恥じ入るしかない。実際、その通りなのだ。
「そ、そうだね……天堂さんにもそう言われちゃった、かな……」
 鈴のそれは本当のことだったが、歩美には「早速惚気て~」なんて笑われてしまった。
「でも羨ましいな。超セレブじゃん。役員統括だっけ。将来は社長か重役じゃない」
 言われたことにはあわあわしてしまう。そんな、身分目当てのような。
 鈴がそんなつもりではなかったなんてこと、歩美はわかっているだろうけど、その事実は確かにあるのだ。
「そ、そうだけど、そういうつもりじゃ……」
「やだなぁ、鈴がそんな打算的だなんて思ってないって」
 言い訳のようになるが、そう言おうとしたけれど、歩美にさらっと遮られてしまった。でもそのあとからかわれる。
「それに、そんなことできるほど器用じゃないでしょ。手先は器用なのに」
「そんなふうに言わなくても!」
 恥ずかしくなって、ちょっと声を上げたけれど、これは茶化してもらったのだし、それにはこう返すのが正解なのだ。
< 78 / 105 >

この作品をシェア

pagetop