エリート警察官は彼女を逃がさない

フランスの方が日本語の本を読めるのだろうか。そんなことを思いながらも私はそれを持ってホテルの最上階へと向かう。三十階あるこのホテルの最上階は、セキュリティーも完璧に施され、一般客はもちろん、それなりの身分の人しか入れない。
これが必要ならば必要なのだろう。

ふわふわの絨毯を歩きながら、その部屋の前で息を整える。
大きなスイートの立派な部屋のベルを鳴らせば、少しして扉が開いた。
声を発そうとした私だったが、目の前に現れた人に持っていた本を落としてしまった。

「どうして……」
そう呟いて立ちすくんでいると、二階堂さんは本を拾ったあとすばやく私の手を引き扉を閉めた。

「美緒が来てくれてよかった」
今日はラフなブラックのパンツに白いシャツを着た彼は、私を見て微笑む。
「フランス語で話せば美緒が来てくれるかと思った。賭けだった。指名するわけにはいかなかったから」
いったいいつ私がフランス語を話せると知ったのだろうか。疑問に思うことだらけだが、私は端的に問いかける。
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