エリート警察官は彼女を逃がさない

私みたいな田舎の娘では身分も違うし、釣り合わない。考えれば私ではダメな理由などいくらでもある。
いったん言葉を捜すように話すのをやめた征爾さんに、私はそれ以上今は聞きたくなくて言葉をかぶせた。
「あの、いいんです。私のことを思っていてくれているのならそれで。今、そう思っていてくれるからこうして一緒にいてくれている。それだけで十分です」
「美緒……」
私の言いたいことが分かったのだろうか。征爾さんは苦し気な、何かを悩むように眉根をゆがませた後、「ありがとう」そう言って笑った。

その日、私たちは何も言わずに抱き合った。どちらから誘ったか、それはわからない。
誰もいない隠れ家のようなこの家の寝室は、真っ白な壁に真っ白なベッド。窓からは怖いぐらいのオレンジの満月だけが見えた。
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