ABYSS〜First Love〜
リオ

sideA-5

ユキナリがまさかハワイまで来るとは正直思ってなかった。

取材中にユキナリを見つけてすぐ駆け寄りたかった。

結局ユキナリはオレと少し話しただけで帰国してしまった。

オレはもうほとほと疲れ果てた。

もうユキナリのことを思ってもどうにもならないんだろう。

ユキナリはいつも気を持たせるだけ持たせて
最後は必ず逃げる。

それがどんなにオレを傷つけることなのかわかってないんだろう。

オレの怪我は思ってたより良くなかった。

普通には生活出来ても、アスリートとしてはこの先厳しいらしい。

オレはこの先夢見てた未来を失うことになった。

仕事もユキナリも失ってオレには何にもなくなった。

サーフィンをやめて一旦地元に帰ることにした。

もう一度勉強し直して大学に行こうと思った。

そのあと、オレを最初に広告のモデルに使ってくれた人から連絡が来た。

「またウチのモデルやってくれない?」

「いや、オレもうサーフィンは昔みたいに出来ないですよ。」

「新しくアパレルの会社立ち上げるの。

リオくんが手伝ってくれると嬉しい。」

オレはしばらくその人の会社の専属モデルになることを決めたが
話はどんどん大きくなっていった。

「リオくんさ、モデルの仕事に興味ある?」

「いや、オレ…ちゃんとしたモデルなんか…
てゆーかオレモデルに向いてますか?」

「うん、実はね…知り合いのモデル事務所の人に紹介して欲しいって言われてるんだ。

この前のうちの広告見てね、
リオくん背も高いし、華があって良いって言っててね…ぜひ紹介して欲しいんだって。」

オレの人生は思ってた方向とは全く違う方に向かって進んでいく。

とりあえずオレは大学にもう一度入り直したいと思っていた。

「うん、良いと思う。
学歴はあった方が何をするにも損することは無いしね。

それなら都内の大学に通いながらモデルすればいいんじゃない?
現役大学生モデルってのも良い肩書きになるしね。」

オレは結局事務所に入り、
事務所の援助もあって都内のワンルームマンションを借りて勉強しながら仕事をした。

また受験生するかと思うとウンザリしたが
モデルを長くやる気はない。

できればサーフィンに関する仕事をしたかった。

夢は海の近くで子供たちにサーフィンを教えながらいつかはオリンピックに出るような選手を育てて見たかった。

その為にも勉強していつか必ず起業したいと思った。

前よりも偏差値の高い大学に合格するために
勉強は大変だったがとにかく空いてる時間が有れば必死で勉強した。

ユキナリのことを想わない日はなかったが
前よりずっと気持ちは落ち着いてた。

その次の春、オレは第一志望の大学に合格した。

モデルとしての仕事も増えて
大学に行くと
「リオくんですよね?」
とまた前のように自分を知っててくれる人が増えて来た。

女の子にモテるというのは悪いことではないが
オレの心にはいつもユキナリがいた。

男が好きなのかと思ったが他の男子に興味を持つことは無く、
もちろん女の子とも付き合ったりしなかった。

「思うんだけどリオって心に誰か思ってる人がいるの?」

「え?」

同じ学科のよく飲みに行く仲間である桃子にいきなりそう聞かれた。

封印していたユキナリへの気持ちが急にオレの胸を締め付けてくる。

「関係ないだろ?」

オレはこの気持ちを誰にも知られたくなかった。

席を立とうとすると桃子はいきなりオレにキスしようとして来た。

オレは桃子を振り払って
桃子はイスから落ちた。

「え?」

桃子は唖然とした顔でオレを見た。

「ゴメン、大丈夫?」

桃子は痛そうだったが立ち上がるとオレに言った。

「やっぱりいるんだね。
好きな人。」

「そういうのはもうどうでもいいんだ。
今は誰も好きにならないし、なれない。」

「それってその人のことが忘れられないってことじゃない?」

図星だったがオレはその気持ちを悟られたくなかった。

「とにかくゴメン。怪我してない?」

「こっちこそゴメン。
リオの気持ち無視して…」

桃子はそれから何も聞かなくなった。

ただオレたちは友達として
飲みにいったり、
他の仲間も誘ってキャンプに行ったりした。

ある日、バーで飲んでいると
信じられないことが起きた。

「リオ…?」

立っていたのはユキナリだった。



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