ABYSS〜First Love〜
リオ

sideA-6

ユキナリは結婚しないことにしたと言った。

しかしそれはユキナリにとってとても辛い選択のように思えた。

入院しているお父さんから勘当されたような形で
仕事も家も車も失った。

そして目黒のマンションから少し離れた場所にある小さな古いアパートに越した。

「家賃いくら?」

「馬鹿にしてんのか?

渋谷区の住人だからって偉そうだな。」

ユキナリは前よりは幸せそうだったが
お父さんのことを心配してずっと元気がなかった。

ある日、オレは仕事帰りにユキナリと新宿で待ち合わせて
そこで思いもかけない人に逢った。

「リオ!…え?ユキナリ?
あーお前ら何やってんだよ!」

「お、オウスケさん?」

オウスケさんは海の家の時の顔とは全く違ったスタイルでまさに夜の王様みたいだった。

「え?誰かわかんなかった!」

「お前らうまくいったんだ?」

「あー、はい。」

ユキナリがオレの顔を見てそうオウスケさんに返事をした。

何だか本当の恋人になったみたいですごく嬉しかった。

「良かったらオレんちで飲まないか?
いい酒出してやるから。

もうリオも酒飲める年になったしな。」

オウスケさんの家は有名な高層マンションで
ここは成功者しか住めない場所だった。

部屋に招待されてビックリした。

見たこともない広いリビングに
イタリア製の高級家具
ジャグジー付きのお風呂
広い庭のようなベランダと次から次へと驚かされた。

「まぁゆっくりしてけ。」

その日オウスケさんにユキナリとオレが苦労して結ばれた話をした。

そしてユキナリが今は無職で家賃40,000円の古いアパートに引っ越したことも話した。

「マジか。辛いな、ユキナリ。

なんかいい仕事紹介しようか?
最もオレは水商売しか知らんけどな。」

「や、待ってよ。
ユキナリにホストはさせないでよ。」

オレは焦ってオウスケさんを止めた。

「いやぁー、ユキナリほどのビジュアルがあったらかなりいい線いくぞ。

でもホストは顔じゃないからなぁ。」

「いや、ダメだって!」

必死に止めるオレをオウスケさんは揶揄って楽しんでた。

「大丈夫だって、ホストにはさせねぇから。

それにユキナリはホストに向いてないよ。

コイツが女の子に尽くしたり出来ると思うか?

でもなぁリオ、ユキナリは放っといても女の子寄ってくるぞ。」

「ちょっと、やめてよ!」

揶揄われて怒るオレの手をユキナリがそっと握ってくれた。

「リオ、ちょっと落ち着けって。」

ユキナリの久しぶりの笑顔を見て
オレは少し安心した。

そしてオウスケさんに感謝した。

「ユキナリ、水商売でも良いならいいとこ紹介してやるから考えとけ。」

オレは反対だったけど
ユキナリは興味を持った。

今までとは全然違う仕事をしてみたいと言ってたし、
2人で夢を語った時、ユキナリは将来は海の近くに気軽にみんなが集まれるような美味しい料理やお酒を出す店を持ちたいと言ってた。

それはこの一歩かもしれないとユキナリは考えていたんだろう。

オレたちはその夜、再会に乾杯して明方まで飲んだ。

色んな話をしたが最後の最後にオウスケさんが多分一番聞きたかったことをオレに聞いた。

「リオ、アキラどうしてる?」

「あー、元気ですよ。

今度都内で個展ひらくって。

もしかしたらオウスケさんに逢いに来るかも。」

オウスケさんは今はまでとは違った悲しげな顔に見えた。

「そうか。

でもアイツ逢いに来るかな?」

オレはそんなオウスケさんがもどかしくてオウスケさんの気持ちが知りたくて思わず聞いてしまった。

「正直なところ、オウスケさんはアキラさんのことどう思ってるんですか?

アキラさんはオウスケさんは来るものは拒まずだっていつも悲しんでた。

自分は愛されてないって。」

「おい、お前が聞くことじゃないだろ?」

ユキナリがオレを止めてオレはオウスケさんに謝った。

「すいません。

でもアキラさんあれから誰とも付き合わないし
元気もないし心配で…」

「そっか。
リオは優しいな。」

「アキラさんはオレの恩人で大切な家族みたいな人だから。」

「うん。」

結局、オウスケさんの本心はわからなかった。

でもオウスケさんの部屋に観たこともない女の人の写真が飾られてて
オレはなぜか直感的にその人が故人だと感じた。

オウスケさんの閉ざした心の鍵はこの人が持ってるんだと思った。










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