ABYSS〜First Love〜
リオ

sideA-7

ユキナリが嫉妬するのは嬉しかったけど
今回のはちょっと違った。

アキラさんがオレに本気なわけでも
そういう気持ちがあったわけでもなく
オウスケさんを好きでどうしようもなくて
それを昔みたいには受け入れられなくて
オレに助けを求めただけだ。

傷だらけのアキラさんをただ抱きしめてあげればよかったんだ。

アキラさんはまた愛されないまま
オウスケさんに戻ってしまいそうだった。

オレは黙ってその話を聞いて
アキラさんはオレを抱きしめて言った。

「リオは優しいな。
なんでリオみたいな優しい男好きにならなかったんだろ?」

もちろんそれ以上のことを求められたら
オレはユキナリのことを考えて絶対に断ってる。

そんなこともわからないほど
近頃のユキナリはアキラさんにすごく敏感だった。

今はオレが何を言ってもきっと信じないだろう。

アキラさんはもう少ししたら個展を終えて田舎に帰る。

帰るまではあまりユキナリとアキラさんを会わせたくなかった。

しかしアキラさんが帰る前に
オレは急な仕事でハワイに出張になった。

「リオくん、もうちょい笑顔貰えるかな?」

ユキナリには何も言わずにこんな遠くにいる。

怪我した時ユキナリがハワイまで来てくれたことを思い出した。

ユキナリのおかげでハワイの海はトラウマにならずに済んだ。

あの幸せな記憶があるから怪我してサーフィンから遠ざかることになってもオレはこの場所が好きだった。

それどころか久しぶりに見る海は
また波に乗りたいと思わせてくれた。

休憩時間に少し波に乗った。

大きな波がオレの気持ちを掻き立てる。

パドリングしてるだけで気持ちが良かった。

波を待つ間、ずっとワクワクしていた。

やはり思うようにはうまくいかなったが
ボードの上に立って風を感じるのは最高の気分だった。

ユキナリと一緒にまた波に乗りたいと思った。

だけど今のオレはユキナリと向き合う自信がなかった。

ハワイにも逃げてきたみたいに仕事を受けた。

今はとにかく日本を離れたかった。

ユキナリに逢いたかったけど
ここに来てもユキナリのことで頭はいっぱいだったけど
今のオレはユキナリに会うことが怖かった。

オレはついこの間までユキナリと仲直りするつもりだった。

あんな誤解で別れるとかあり得なかった。

それなのにオレの周りの環境が一変して
オレはユキナリの誤解を解かないまま日本を離れた。

ユキナリのことを思えばこのまま永遠に離れる方がいいのかもしれない。

だから社長に言われるままこの仕事を引き受けた。

離れていたらユキナリに逢いたくなっても簡単には逢いにいけないからこの場所が好都合だった。

ここにいる間にユキナリは頭の中で
オレとアキラさんとの仲を疑い続けてオレを諦めるかもしれない。

そうなってくれたらそれはそれでいいと思えた。

オレは今、初めて自分とユキナリの恋愛が世間では簡単に認められないことを知った。

ユキナリと付き合ってることが自慢でしかなかったのに
今、オレはそのことで全てを失いかけていた。

仕事を失おうが、後ろ指差されようが悪いことなどしてないと胸を張ってた。

ユキナリさえ居てくれたら何も要らないと思ってた。

でもオレのせいでユキナリが何かを失うのは耐えられなかった。

このまま突き進んだらユキナリも色んなものを失うはずで
オレがユキナリの傷になる。

そう思うとどんなに辛くても今はユキナリと距離を置くべきだと思った。

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