◇水嶺のフィラメント◇
 束の間の休息、皆それぞれ自身のために時間を費やしているというのに、フォルテだけはパニのため・兵士や侍従のために食糧や水を配るなど(せわ)しくしたままだ。

「大丈夫だよ。フォルテのことは気にしなくていい」

「え?」

 隣に腰を落ち着かせた侍従が、パニの肩に手を置いた。

 驚いて見返した侍従の横顔は、少々笑いを(こら)えるような、それでいて哀れみを含んだような、どこかシンパシーを感じさせる口元でフォルテを見詰めていた。

「動いていないといられないのさ。姫さまのことが心配で心配で」

「あ……」

 突如いなくなった王女を置き去りに帰国を決めたフォルテの今は、どれだけ傷心の至りであるか。

 兵士と侍従の間を行ったり来たり、献身するフォルテの背中をパニも同じ眼差しで見詰めた。

「……はい」

 ──身代わりの姫さまをしっかりと演じよう。

 パニの心の空間に一陣、力強い風が吹き抜けた──。


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