「このフォルテに隠しごとなど、通せるとでもお思いでございますか!? さぁさ姫さま、お顔をお見せくださいませ。わたくしめがその水晶(クリスタル)の如きお涙を(ぬぐ)って差し上げます」

「クリスタルだなんて……」

 フォルテの(たと)えは昔から大仰(おおぎょう)だ。

 苦々しく笑っていると、涙の伝った頬が柔らかい布地で包まれた。

「フォルテ、あたしを甘やかし過ぎよ」

 含み笑いで(とが)めながらも、せっせと働く手に身を(ゆだ)ねる。

 フォルテの母親は姫の乳母(うば)であった。

 物心つく頃には、既にフォルテも見よう見まねで彼女の世話を手伝っていた。

 それから約二十年、心配性は玉に(きず)だが、今でもかけがえのない第一等侍女である。

「もう……何度目の朝になるのかしら? フォルテ」

 寝台から立ち上がり、一筋の光を注ぐ小さな窓に目を向ける。

 画鋲で留められた厚手の布地は、いかにも急ごしらえといった様相だ。

「……三度目、でございます。姫さま……」

「……」

 窓辺に寄せる歩みが、その答えと共に止まった。

 まるで「近付いてはなりませぬ」と(いさ)められた気がしたからだ。

 「少しでも『中』の気配を悟られてしまえば、命の保証はございませぬよ」──そう(さと)されたかのように。