◇水嶺のフィラメント◇
 おどけながら話を終えたメティアであったが、その奥底からレインへの深い忠誠心が(うかが)い知れた。

 幾らその時の恩があろうとも、命すら危ういこの計画に乗ってくれたのはそういうことだ。

「……良かった」

 アンは一言、嬉しそうに微笑んだ。じんわりと喜びを噛み締めるその横顔に、

「そりゃあ~あたいの魅力でも動じないほど、レインのアンへの愛情は深いってことさね」

 アンが呟いた「良かった」こととは、レインがメティアの「誘惑に乗らなかったこと」とメティアは察したが、

「あ、ううん、そうではなくて」

 アンが「良かった」と感じたのは、メティアがその身を売らずに済んだこと・彼女の家族が未来を紡ぐための金銭を手に入れられたことであった。

 レインもアンも、それが貧しい民たちを根本から救える手立てだとは思っていない。

 ──それでも。

 目の前の惨状に手を差し伸べてくれたレインを、アンは心から誇りに思った──。


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