◇水嶺のフィラメント◇
「これはどうしたものか……姫さまがもし王宮へ乗り込んだとなれば、やはり我々も……」

「……」

 侍従や兵たちが口々に意見を言い合う中、フォルテだけは珍しく唇を噛み締めたまま、何も言葉を発さずにいた。

 隣に座ったパニも、そんなフォルテが語り出すのを待つように、心配そうに横顔を見詰めている。

 フォルテはずっと考えていた。姫が何を想って動き出したのかを。

 一昨日夜から王宮の地下牢に囚われていた兵士六名。

 その捕縛者は依然判っていないが、おそらくヒュードル候の一派である可能性は高い。

 兵たちがレインに救われたのは本日真昼のことだったという。

 それまでの間、彼らは特に尋問されることもなく、目隠しと猿轡(さるぐつわ)をされたままずっと拘束されていたそうだ。

 なのに彼らに扮した六人はどうやって知り得たのか、パン屋の店主と約束した場所に現れ、更に隠密(おんみつ)行動をしていたレインにアンの潜伏先までも知らせていた。


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