クールな御曹司は離縁したい新妻を溺愛して離さない

すれ違い

パーティーから1カ月を過ぎたが、私は一切誘われることがなかった。
修吾さんひとりで行くのを見かけるが同伴するように言われたのはあの時の一回だけ。

お供します、とは自分から言えないけれど、どうしたら彼の役に立てるのか分からずモヤモヤとしてしまう。
よほど彼に不快な思いをさせてしまったのだと思うとこの結婚への意義が見出せなくなってしまった。
私だけの望みを叶えるだけで彼には何のメリットも無くなってしまった。
お見合いだけを避けられるだけのコマにしかならなくなってしまい不甲斐ない。

けれど彼は時間があるとはなみずき製菓を気にかけ、新作のアドバイスもしてくれる。味に関してはなかなか口出しできないが、パッケージなどの発想の転換をもたらしてくれる。我が家にとってはとてもいいお婿さんだ。
また、彼はお店に来るとたくさんの商品を買ってくれる。父は代金はいらないというが、貰うわけにはいかない、ときちんと代金を払っていく。
金平糖に対する評価なのだから払わせてほしいと父にお願いをしていた。
そんな修吾さんの姿に今では家族だけでなく従業員からの信頼も厚い。

だからこそ不甲斐ない私は自己嫌悪に陥る。
どうしたらこの恩を彼に返せるのか分からない。
はなみずき製菓にとっては大きな仕事だが、両親に話してこの話は無かったことにしてもらった方がいいのではないか。
日に日にその思いに駆られてきた。
このままいけば後1カ月ほどでホテルに起用され始めるだろう。そこから離婚の提案をするのは虫が良すぎる。
初めからなかったことにすべきなのではないか。

彼は特に変わった様子はなく、今まで通り朝ご飯を一緒に食べ、夕飯も時間が合えば一緒に摂る。合わなくてもよほどのことがないかぎり彼は遅くなっても文句ひとつ言うことなく夕飯を食べてくれる。
掃除や洗濯にも文句ひとつ言わない。

こんないい旦那さんなのに私は何も返せないんだ思うだけで苦しくなってしまう。

やはりはなみずき製菓との話はいちど白紙に戻してもらうべきなのではないか。
考えれば考えるほどそう思えてならない。

彼ならば離婚しても特にダメージはないだろう。むしろ箔が付くだろう。
容姿も社会的地位も性格もどれをとっても悪いところはない。話せば話すほどに彼の可愛いところが見えてきて私は胸が高鳴ってばかりいる。きっと他の人も彼と話せばそうなってしまうだろう。けれど彼が他の人と、と考えただけで胸が苦しくなる。

早く言わなければならないことはわかっている。
今夜、彼にちゃんと言おう。
両親には改めて謝ろう。
私は決心した。
最後になるかもしれないから彼の好きなものをたくさん作って彼を待っていようと心に決めた。
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