遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
4.勇気
 きっと迷惑なのだろうから帰ってもらおうと思っていた。なのに、香坂に言われて鷹條はケロリと了解したのだ。

「じゃあ、行くか」
 ベッドから車椅子への移動もふわりと亜由美を抱き上げる。

「あのっ……」
「杉原さんはとても礼儀正しい。朝の俺の失礼を詫びる意味だと思って。それに、こんな時くらいは甘えたら?」

 今朝、最初に見た時から鷹條はものすごく硬い表情だった。
 きっと迷惑を掛けていると思うと、亜由美は申し訳ない気持ちでいっぱいだったのだ。

 怖いおじさんを追っ払ってくれて、溝からヒールを抜いてくれて、病院まで連れてきてくれた。
 もう、それだけで充分に鷹條の優しさは伝わる。

 なのに彼は亜由美に向かって、甘えたら?と言ってくれたのだ。

 年齢よりしっかりして見えることもあり、その雰囲気で周りには頼られたり、大丈夫だと思われることの方が多い亜由美である。

『甘えたら?』
 そんなことを言われたことはここ最近なかった。
 なんだかその一言はひどく心に響いたのだ。

「っ……」
 ぽろぽろっと涙がこぼれてしまった。
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