十年越しの溺愛は、指先に甘い星を降らす
朝日が昇った。
もう、夢の時間は終わった。

「次は、2ヶ月後に来てくれ。調整するから」
「分かった」

その頃には、もう私は中野さんの妻になっている。
きっと、この気持ちも、その頃には消えている。
消さなくてはいけない。

「もう、行かなきゃ」
「そうか」
「うん」
「また、2ヶ月後な」
「うん、2ヶ月後ね」

私は、踵を返して、春の空色のお店を背に歩き出した。

次、ここに来るときは、仕事としての妻の顔になっているだろう。
左薬指に、冷たい、生涯続くかもしれない契約の鎖をつけて。

せめて、自分の心が壊れないように、真横の小指にピンキーリングを付けたかった。
それが、ここに戻ってきてしまった理由。
唯一好きになった人が、私のためだけに作ったと言う思い出があれば、それだけで私は生きていけると思ったから。

くだらないと笑われるかもしれない。
そんな人生でいいのかと、怒る人もいるかもしれない。
けれどもこれが、私の選んだ結果なのだ。

その結果で、喜ぶ人もいるのは事実。
だから私は、この決断の責任を取る覚悟は……していた……はずだったのに。
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