月下双酌 ─花見帰りに月の精と運命の出会いをしてしまいました─

おまけ3 :睦月ー送別会にて

佐藤さん視点。
朔の送別会でのこと。


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 夜の繁華街。飲み会を終えて、店員さんのありがとうございましたの声と共に居酒屋から出た。今日は会社先輩の送別会。一月半ばということもあり、新年会も兼ねて内々で十名以下の会は和やかなままお開きとなった。最初に出た私は店の前で参加メンバーを待つ。そんな時に背後から声をかけられた。

「もしかして、二軒目探してるー?」

 振り返ると背広姿の男性三人組がこちらを見て手を振っている。酔っているのか、やたらに陽気な雰囲気を醸していた。

「どうせ、会社の飲み会でしょ? 一次会終わってこれからどうする二次会行く? ってところ」
「ねー、それなら俺たちと 二次会しようよ」
「……はぁ」

 ノリと勢いについていけず、ぼんやりとした相槌を打ってしまう。って、しまった。こういうのって反応したら駄目なのか。

「なにやっているんだよ、お前ら! すみません迷惑かけて。……でももし良ければせっかくなんで、どうですか?」

 酔った勢いの、ナンパ。一人目が強引に話を進め、二人目がその補佐、三人目はその二人を諫めるふりしつつ、でも止めはしない。役割分担も出来ていて、こなれている。

 断ってもしつこそう。面倒くさいな。

 と、さらにぼんやりと考えていたら、目の前の自動ドアが開いた。出てきたのは、本日の飲み会メンバー。良かった。救世主現る、だ。

「飯島さん!」

 親しげに目の前の人に微笑みかける。実際は会社でも別部署の、月一回のミーティングでしか顔を合わせない人。しかもそのミーティングだって、退職する先輩の引き継ぎで先週初めて参加したばかりだ。

 飯島さんはちょっと驚いたように目を瞬かせると、背後のサラリーマンナンパ三人組に目をやった。

 お願いします、飯島さん。

 目だけで訴えると状況を把握したらしく、にこやかに微笑み返される。

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