月下双酌 ─花見帰りに月の精と運命の出会いをしてしまいました─

ツマミ3:睦月ーチョコレート

最後は朔視点で。


********


「いらっしゃいませー」

 微妙なイントネーションの店員さんの挨拶で迎えられ、私と暗月はコンビニに入った。一月の半ば。正月の空気はとっくに去り、店内は節分のディスプレイで彩られている。暗月は興味深そうに店内を見回すと、私の隣で小さく呟いた。

「ほう。これが……」

 好奇心を隠そうともしないその口調に、思わずくすりと笑ってしまう。

「そういえば初めてだったよね」

 あれだけ散々お世話になっているにも関わらず、暗月と一緒にコンビニで買い物をしたことがなかった。というか、公園以外で会うのって初めてじゃないのか私たち?

 会社のみなさんが開いてくれた送別会。この時期、まだまだ新年会で盛り上がる最中だというのに、飲み会スケジュールを一つ増やしてしまって申し訳ない。そしてなぜか暗月が迎えに来たいと言い出し、彼の月一のお休み日に送別会をセッティングしてもらった。そんな暗月のお目当ては、私に関わった人たちを直接見てみたい、というもの。

 え? それって飯島さんとか飯島さんとか飯島さんとか? ……なんで今更?

 とかぐるぐる考えてしまったのだけれど、意外にも後輩の佐藤さんにも興味があったみたいだ。あの二人が偶然並んで立っているのをみて、暗月はやたらに楽しそうにしていた。

 まあ、暗月が満足したのなら、それは良かった。そして会社のみなさんも、美人な暗月を見ることができて満足した様で、それも良かった。自分が振った相手や会社の人たちに正体隠した自分の結婚相手を紹介するという、精神的にゴリゴリと削れる作業をしたのが私だけで良かった!

「という訳で、今日は飲むよ」

 キッと表情を引き締めて、暗月に宣言する。

< 54 / 57 >

この作品をシェア

pagetop