つけない嘘
ニ.嘘
「久しぶりに飲みにいかねぇ?」

朝、エレベーターの中でばったり遭遇した亮が私の横に並ぶと正面を向いたままそう言った。

そういえば、最近亮を見かけなかったな。

出張続きだったんだろうか。

「いいね。じゃ、同期の陽子にも声掛けとくわ」

「……あ」

何か言いいたそうな口をした彼を見上げた時、丁度エレベーターが目的階に到着した。

亮がお先にどうぞとジェスチャーするので、遠慮なく先に降りる。

彼も私の後に続いて降りてきたけれど、特に何も言う気配もないので「じゃ、またメールする」とだけ言って自分の席についた。

結婚後も時々亮を含めた同期達と飲みに行くことがあり、くだらない話で盛り上がる。

回数は減ったものの、今でも変わらない飲み仲間と独身時代から続くとりとめのない会話が、結婚生活に若干疲れた自分の癒しになっていることは間違いない。

席に着くや否や、早速同期の村島 陽子(むらしま ようこ)にメールを打つ。

【せっかくのお誘いごめーん!今日は彼と久々にデートだわ】

即陽子からの返信。

陽子は最近、高校の同窓会で今の彼と再会。北海道に赴任している彼とは遠距離恋愛中だった。

【そりゃ仕方ないよね。久々のデート楽しんできて。だけど、陽子が無理なら誰誘おう?】

【亮と二人で行ってこればいいじゃん】

【二人きりはやっぱねぇ。一応私も人妻だし】

冗談めかして返信するとまたすぐに陽子から送られてきた。

【ただの飲み仲間の一人じゃん。不倫でもしてるわけじゃなし、気にしなくていいんじゃない?たまには旦那以外の男とデート楽しんできちゃいな。まぁ、亮とだったら色気も何もないだろうけど】

はは……まぁね。

不倫、か。

確かに、やましい関係じゃないから、二人で行ったってかまわないか。

もし二人きりが不都合なら、きっと亮が誰かを誘うだろう。

亮に任せることにしよう。

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