When pigs fly〜冷徹幼馴染からの愛情なんて有り得ないのに〜
* * * *

 恵那がシャワーを浴びてから寝室に戻ると、そこに泰生の姿はなかった。代わりに紙袋がベッドの上に置いてあり、その中には服や下着などが大量に入っていた。

 誰のものかと胸がざわついたが、タグがついたままなのでホッと胸を撫で下ろす。とりあえず中を探りながら、動きやすそうなTシャツとロングスカートに着替え、それからダイニングに向かう。

 すると食欲をそそるいい匂いが恵那の鼻をくすぐる。キッチンでは泰生が何かを作っている途中だった。

「もうすぐ出来上がるから、座ってて」

 そう言われて、キッチンの向かい側のカウンター前の椅子に座る。手際の良い様子を眺めながら、頬杖をついた。

「……自炊してるの?」
「休みの日はな。一人暮らしが長いから」
「……この服って着ても良かった?」
「もちろん。好きに着てくれ」

 どこかよそよそしい態度になってしまう恵那の前に、泰生は作ったばかりの朝食を置く。それを見た恵那は感嘆の声をあげた。

「すごい! 何このプロ並みのスクランブルエッグは!」
「恵那、昔から好きだったよな。皿いっぱいに盛ってるのを見た時は引いたけど。しかもおかわりしてたし」
「す、好きなんだからいいでしょ」

 バランス良く盛られたワンプレートを眺め、恵那はため息をついた。

「泰生はいつも完璧ね……私には無理だわ……」

 あまりの美味しさに舌鼓を打ちながら、自然と笑顔になれた。少し遅めの朝食が、空腹感を満たしていく。

 見た目も良くて、家事も出来て、しかも医者だなんて、今までどれだけモテてきたのかしら。小学生の頃だって相当のものだった。だから男子校に進学すると聞いた時は、心から安心したのを覚えてる。

「ねぇ、こんなところに私を閉じ込めてどうするつもり?」
「何か予定でもあったのか?」
「ないけど……ずっと家の中にいたって楽しくないと思っただけよ。それに……その……二人でいる意味がわからないだけ」

 しかしその言葉に返事はなく、泰生はコーヒーを飲み始める。

 また無視ってわけねーーカチンときた恵那は、食べ終えた食器を片付けると玄関に向かって歩き出した。

「どこに行くんだ」
「暇だから散歩」

 泰生は立ち上がると、恵那の手を掴む。そして険しい目を向けた。

「ダメだ」
「どうして? やることないんでしょ? だったらいいじゃない」

 その瞬間、恵那は壁にピタリと吸い付くように、背後から泰生に押し付けられた。
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