When pigs fly〜冷徹幼馴染からの愛情なんて有り得ないのに〜
 背中に泰生の熱い胸板を感じ、恵那は体の奥の方が締めつけられるような感覚に陥る。

 先ほどまでの熱がまだ引いていなかった。

 首筋に泰生の唇が触れ、ゆっくりと滑っていく。Tシャツの裾を捲られ、背筋を滑る唇の感触と、恵那の敏感な部分を責め続ける指使いに、呼吸が荒くなっていく。

「やることって……これしかないわけ?」

 恵那は唇を噛み締め、平静を装いながら泰生に話しかける。すると彼の動きがピタリと止まる。

「わかった。じゃあやることをやろう」

 背中越しに聞こえた言葉に、恵那は思わずゴクリと唾を飲み込んだ。

 泰生は体を離すと、恵那の手を取ってソファに向かう。自分が座ってから恵那の腰を引き寄せ、向かい合うように自身の膝の上に座らせた。

 必然的に泰生の足を跨ぐような形になり、恥ずかしくて顔を逸らす。しかし顎を掴まれ引き戻された。

 なんでこんなに強引なのよ……! そう思うのに、泰生の真剣な瞳に囚われ身動きがとれなくなる。

「もうあいつには会うな」
「言われなくたって別れるわよ。あんなことになって続けるわけないじゃない。私はただ楽しい恋愛がしたかっただけ。不倫がしたかったわけじゃない」
「絶対だな?」
「当たり前でしょ。幸せになれない恋愛なんて、こっちから願い下げよ」

 その言葉を聞いて、泰生の表情が緩んだような気がした。泰生が何を言おうとしているのかわからなくて、恵那は少し戸惑う。

 ねぇ、泰生。あの日も、そして今朝も、どんな気持ちで私を抱いたの……? 教えてくれたら私、ちゃんと素直になれる気がする。

「あの男とはいつ頃知り合ったんだ?」

 泰生の言う"あの男"が、不倫相手を指していることはすぐにわかった。

「人の傷口を抉るようなことを……」
「そういうことをしたのはお前だろ」

 返す言葉に困り、恵那は口を閉ざした。

「……一ヶ月前。話も面白いし、指輪もしていなかったから……年齢的にもそろそろ彼氏を作って結婚かなぁって思って、チャンスかもと思って付き合っちゃっただけ」
「そんな安易な。指輪していない既婚者だってたくさんいるだろう」
「でも、とりあえずそれが目印だったの! 馬鹿にすればいいわ。確かにそこまで深い関係じゃなかったし」
「セックスはするのに?」
「それは……付き合ったら延長線上にあるものじゃない。私よりあんたの方がセックスに対する考えは甘いんじゃない? 付き合ってなくたって出来るんだもんね?」

 恵那が睨みつけると、二人の間には沈黙が流れた。
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