「泰生っ……苦しい……」
恵那が息を切らしながら言うと、泰生ははっと我に返り体を離すと、その場にへたり込む恵那の体を抱きしめた。
「悪い……つい……」
「大丈夫……タオルくれる? あとベッドまで運んで。疲れた」
「わかった……」
泰生はバスローブを着ると、恵那にも同じように着せる。タオルで恵那の髪を撫で、それからベッドまで行くと彼女をそっと寝かせた。
そしてすぐに背を向けてその場を離れようとしたため、恵那は泰生のバスローブを引っ張って引き止めた。
「どうしてすぐにいなくなろうとするの?」
泰生の背中がわずかに震える。
「あの日もそうよ……私の顔も見ないでいなくなった……」
恵那の言葉を聞いても微動だにせず、ただ立ち尽くしている。
「……合わせる顔がなかったんだ……」
「えっ……」
「恵那が眠っているのに……俺は自分の中の怒りと欲望に任せてお前を抱いたんだ……」
ようやく話し始めた泰生は、恵那に背を向けたままベッドに座り込んだ。その背中があまりにも悲しみを帯びていたから、恵那はたまらなくなって抱きしめる。
「ねぇ、怒りって何? あの日何があったの?」
暫くの沈黙の後、泰生は両手で顔を覆い下を向いた。