「じゃあ、頑張って」
「おう。
任せとけ」
駅で別れ際、声をかけると自信満々にニキは頷いた。
「いってきます」
きょろきょろと人目がないのを確認し、素早く彼が私の唇にキスを落とす。
「はいはい、いってらっしゃい」
「苺も頑張ってなー!」
ぶんぶん手を振りながら去っていく彼を苦笑いで見送り、私も会社へ向かう。
今日、ニキは初出勤だ。
上手くいくといいんだけれど。
入籍したあと、ニキは図書館と私から借りたパソコンでこの世界の仕組みを猛勉強した。
それはもう尊敬するほどの集中力を発揮し、半月ほどで政治経済はもとより芸能界やオタク文化まで私よりも遥かに詳しくなっていた。
魔術というズルはあったが戸籍を取得したので、その後は就職活動を開始。
魔王なので人心掌握術に長けているのか、あっというまに就職をもぎ取ってきた。
これでこの先の生活を心配しないでいいし、よかったなどと思っていたのだが……。
「くそっ、なんで俺が悪いんだ!」
怒りながら料理するニキを、ダイニングテーブルから見ている。
私よりも早く帰ってきていたし、なにかあったんだろうなと思ったらそうらしい。