4番目の彼女

1.パーティで再会

 私はショッピングセンターで筆耕士(ひっこうし)をしている。招待状の宛名や贈り物にかけるのし紙などに筆で文字を書く仕事だ。

 だけど、最近はパソコンの書体を印刷して済ませるということも多くて、8~9割が事務の仕事でのこりの1割程度が筆耕である。

 そんな私が、珍しく出席することになったのは取引先であるダンススクールの創業5周年パーティ。このダンススクールは卒業時や実力検定の証書の名前書きを注文してくれるお得意様だ。

 仕事場の更衣室でドレッシーなライトカーキのワンピースに着替え7センチヒールを履いた。こういう装いは久しぶりだ。

 少し浮かれた気分で会場のホテルにつくと、ボーイが配るシャンパンを受け取り、サイドに並ぶ色とりどりの料理やデザートを眺める。
 非日常感に気分は高まり自然と背筋が伸びる。
 普段は地味で墨汁まみれになっている私でもせめてこういう場所ではいい女を気取りたい。

「それでは、代表よりご挨拶をさせていただきます」

 会場のライトが少しだけ落ち着いて、司会者が今日の主役を呼び込む。

 少し高い位置に結んだツーブロックのマンバンヘアにピンストライプのピンクブラウンのスーツ、外人モデルかと見紛うほどのイケメンが壇上に上がった。
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