4番目の彼女

12.初志貫徹

「……そういえば、あのとき大きなパネルを運ぶの手伝ってくれたの、徹志くんだったね」

「ごめんね。状況を噂で聞いたけど、俺は何にもできなかった。諦めなかったきぃちゃんをただ心で讃えただけだった」

 徹志くんの指の背が私の頬を撫でる。その手を握ろうと布団から手を伸ばした。

「あの頃さ、野球部でも活躍できなくてダンスもメンバーに選ばれなくて、ほんとなんもかんも中途半端でさ、すごい自分が恥ずかしい存在のように思っててさ。
 でもきぃちゃんの活躍を見て、俺も何か一つのことを頑張りたいなって。それでダンスを極めてやろうって決心できたんだ。ありがと」

 私が徹志くんを変えたなんて大げさな気がする。
 握った手は暖かかったけど少し震えていた。


「俺、ずっときぃちゃんに謝りたかった、そのあとの書道コンクールの半紙破っちゃったこと」

 そうだ。私の中でもずっと気になっていたあの出来事。

「『きぃちゃんのお陰でダンスに専念する決心着いた』ってぽろっと言っちゃって、それで周りのやつらが俺の気持ちを変な風に誤解して揶揄ったんだ。
 きぃちゃんが『初志貫徹』って書いたのは俺のこと好きだからだって」

「なんで?『初志貫徹』関係ある? 」

「『初志貫徹』って右に初志、左に貫徹って縦二行に書いたじゃん。その下の段を左から読んだら『徹志』になる。たったそれだけ。
それだけのことなのにすごい恥ずかしくて、俺の尊敬の対象をそんな風に言われて、なんか悔しくて、それを掲げて揶揄ってくるやつが許せなくって、で、そいつに飛び掛かって取り返そうとして破っちゃったんだ。
本当にごめん。あれ以降、きぃちゃんに話かける事すらできなくなっちゃって。
情けないよな。」

 そうだったんだ。『わざと破った』と言われて、ずっと心の片隅で何か嫌われることしてしまったんだろうと思ってた。
 けど、きちんと理由を聞けなかったのは私も同じだ。

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