社長っ、このタクシーは譲れませんっ!
「じゃあ、その代わり、私におごられてください」

「だから、お前におごられたら、喉通らないって言ってるだろ」

 そんな感じに揉めながら、二人は駅まで歩き、電車に乗った。

 つり革を持って二人で並び、車窓から夕暮れの街を眺めていると不思議な気分だ。

 千景は思わず、笑い出す。

「どうした?」

「いえいえ。
 新鮮だなと思いまして。

 社長と帰りに一緒に電車に乗ってるのが」

 高校の頃、みんなで電車で通っていたのを思い出すな、と千景は思っていた。

 だが、そこで、はっ、とする。

 キョロキョロと周囲を見回した。

「社長、普通に電車とかで帰って大丈夫なんですか?
 何処からか狙撃されませんか? 社長なのに」

「……お前の頭の中の社長、なんでいつも命を狙われてんだ?」

 どんな危険な会社だ、と言われてしまった。



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