手を伸ばした先にいるのは誰ですか
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華麗なる一族。

国内外からそう呼ばれるのは当たり前の蜷川一族。現‘Ninagawa Queen's Hotel’の創業は実に200年ほど前の旅館だ。

歴史ある家系にありがちな相続問題など、これまでは特に大きくはなく現15代目当主、蜷川朱鷺の代までそのスタビリティーを保っている。ただ、朱鷺が生まれてから28歳という若さで当主になるまでには、金銭問題ではなく少々複雑な家系図が出来上がってしまった。

それは朱鷺の妹、美鳥の存在によるものだ。表向きは妹…

美鳥は‘田代みどり’としてこの世に生を受けた。彼女の父親の田代は、朱鷺の父14代目当主蜷川鷹矢の親友で秘書をしていた男だ。田代は妻と、世間一般の離婚原因1位となっている‘性格の不一致’で離婚して以来、保育所やベビーシッターをフルに活用しながらみどりを大切に育てていたが、若くして病に倒れ、まだ5歳の愛娘のことを案じながら逝ってしまった。

「みどりをうちで引き取る」

鷹矢の迷いない言葉に反対したのは妻、育代だ。彼女は金を愛し、蜷川の名を愛している。結婚当初はそんなことはなかったが、蜷川に入ってから想像を超越した金回りの良さを目の当たりにして少し変わってしまった。

「うちで育てるのはかまわないわ(使用人は余っているし私の生活を変えなくていい。たまに引き取った子と仲良くパーティーに行けば私の株は上がるはずだから)でも籍に入れるのは絶対に反対(相続を考えると子を増やすつもりはないわ)」

こうしてみどりは、遠縁の蜷川の籍に入り、鷹矢、育代、朱鷺と生活を共にすると決まった。鷹矢の希望で‘みどり’から‘美鳥’へと変わり、表向きは養子縁組をした娘で、朱鷺の妹。実際にはよその子だが、同じ蜷川姓でもありその事実は一部の人間しか知らない。
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