手を伸ばした先にいるのは誰ですか
08





料理が特段得意というわけではないが、フレンチトーストが食べたくなったので夕食の片付けの続きに卵液を作りパンを浸して冷蔵庫へ入れる。そこで龍からの電話だ。いつもより早い8時過ぎ…挨拶をして少し話していると

‘美鳥、降りて来られる?少し顔が見たい。黒スーツでない美鳥と会いたい’

龍がそう言った。

「えっ…今どこ?」
‘美鳥のマンションの下’
「そうなの?」
‘会いたくなったからね…いい?’

あの大きくてたくましい龍がなんて優しい声を出すんだ…と、その音色にスマホを当てた耳が熱を持ったように思う。

「…降りるね」

そのまま玄関まで行くが寒いかとリビングへ戻り、部屋で膝掛けやごろ寝ケットにしている大判ストールを手にしてからドアを開ける。そしてエントランスから出たとき

「美鳥、急がなくていいよ」

小走りの私に龍から声がかかると同時に車のヘッドライトに照らされた。すぐにライトは落とされ…あ…朱鷺の車だ…と思った時には後部座席から朱鷺が降りて来た。
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