手を伸ばした先にいるのは誰ですか
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「西田さん、確認お願いします」
「美鳥様、もう確認は必要ありませんよ」
「でも…朱鷺の名前のもので失礼があったら困る」
「もう美鳥様は十分、ビジネスで通用する日本語はマスターされました。子どもっぽい言葉使いもなくなりましたし、すでに日本でも通用するレディですよ。大体、世界で通用するレディでありながら…日本語が難しいんですよね…もう私の指導は卒業です」
「まぁ…そう言われると2年はかかったのよね」
「飛び級するほどの学力があっても難しかったということですね」
「それはちょっぴり意地悪なニュアンスを含むの?日本語能力が低いのですか…私」

俺の執務室で、美鳥と蜷川の最高使用人兼役員である西田のおかしなやり取りを聞く。西田は美鳥の父、田代が亡くなったあと、俺の父親付けになった父親と変わらぬ年齢の男だ。公私にわたり俺はもちろん美鳥を支えてくれる西田と、その妻、冴子さんには頭が上がらない。俺と美鳥がイギリスで暮らす間も西田夫妻と一緒に暮らした。

そして、そのイギリス生活が9歳から始まった美鳥はもちろん日本語を話すのだがそれは日常のことであって、大学卒業後日本語でビジネスメールを書くことには大きな問題を抱えていた。帰国時には日本での生活よりイギリス生活の方が長かったのだから仕方ない。丁寧な日本語を話すという点では西田夫妻がよいお手本となっていたのですぐに対応できるようになったが、遠回しな形式ばったメールの解読に苦戦しては

「これは何が言いたいの?全然わからない」
「全部英語にしちゃわない?」
「えーっ?これのどこから承諾と読み取ったの?」
「もう無理。朱鷺、私をどこか海外のNinagawa Queen'sに派遣して」

と俺と二人の時にはイライラすることもあった。

「それは出来ない。じゃあ、仕事はしなくていいからここにいろよ、美鳥」
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