こんなのアイ?
fifth chapter




 ‘Pietra Kai’の会議に現れたブレントの右手は大きく包帯が巻かれ固定されている。皆が、どうした?と聞くがちょっと打撲と答えている。なんだそれ?

 今日は彼がデザインした物を実物化したものをチェックし商品化するかどうかの会議だ。デザイナーのブレントと試作品を作った者、マーケティングの者など8名プラス俺。

「その手、どうした?」
「おはよう、悠衣。突き指大袈裟に固定されただけ。no problem」

 左手の甲も打撲跡があり明らかに何かあったんだろう…今日の仕事には差し支えないが

「運転できないだろ?」
「電車で来た。たまには人間ウォッチングでいいね」
「今日だけじゃなく、明日木曜もこの時間だぞ。迎えに行こうか?」
「大丈夫、電車でOKだよ。さあ始めよう。早速見せてもらえるかな?」

 上機嫌のブレントはもう試作品を手にし始めた。いつも明るい男だがいつも以上に上機嫌だ。そして翌日も同じように午前に集まり昼、ブレントと食事を取ることにする。近くのカフェで左手でサンドイッチを持って食べる男に聞く。

「不便だな。箸は持てないし…食事大丈夫か?こんなものばかりになるな」
「うん、でも僕アメリカ人だからね」
「結局それ何で突き指した?」
「自転車とぶつかった」
「はっ?事故?」
「うーん、逃げて行ったけど」
「両手って…どんな当たり方してんだか」

 自転車とぶつかり逃げられたと特に腹立ちを見せずに言うブレントを不思議に思いながら珈琲を啜った。
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