寵愛のいる旦那との結婚がようやく終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい
二十三
 ミリア亭の帰り道でふと思う。わたしを見ていればいいと言ったけど、ナサはわたしを見張るのかな。彼は騎士団との訓練と夜の警備で忙しいから、そんなことしないよね。

 買い物しようと商店街により、八百屋の店先、出店を見ながら"気まぐれ"のメニューを考える。

(ポテトたっぷりグラタン、お肉がジューシーコロッケ、お肉ゴロゴロビーフシチュー、ミートボールスパゲティ、チーズがとろーりホットサンド、カツサンドもいいな……わたしも食べたい)

「さてと、明日の"気まぐれ"のメニューはどうしようかな?」

 ここでの暮らしは毎日が楽しい。




 
 ガレーン国で弟のアトールと会ってから一週間が経ち、ワーウルフと戦った傷も癒えて、そろそろ体を動かしたい。

(だって、三キロも増えちゃったんだもの)

 さすがに三キロはやばい……今日のミリア亭の仕事も終わり、明日は午前中がお休みなので教えてもらった、中央区にある人気のパン屋に行く予定。

(ミリアさんも絶賛だったから楽しみ)

 ミリア亭の帰り近くの商店街に寄り、食料、日用品など買い物をしていたら、行きつけの雑貨屋の前で店主に声をかけられた。

「リーヤ、仕事は終わったの?」
「あ、ミサさん。おつかれさまです」

「おつかれさま、店に寄ってく?」

 店主のミサが『店に寄って行く?』と聞くのは、新商品が入荷した合図。

「寄ります。わたし、可愛いお皿が見たいです」
「フフ、それなら、いいデザインの皿が入ったよ」

 雑貨屋、エルフのミサのお店は、木造作りの可愛いお洒落なお店。

 店主のミサはさらさらな緑色の長い髪で、長身のイケメンさんだから、多くの女性がこの雑貨店に買い物に訪れる。でも、ほとんどのお客はミサを見て"ポーッ"と頬を赤らめているらしい。

 ま、わからなくもないけど。

 そのことを前にミカに言ったら、彼はフフッと意味深に笑い。

『そうかな? でもね、微笑んでいるとお客様は、たくさん商品を買ってくれるんだ』

 と微笑んでいた、ミサは商売上手の店主さんだ。

「リーヤ、どうしたの?」
「う、ううん、ミカさん、お皿はどこ?」

「こっちだよ、リーヤ」

 ミカに案内された棚にはお洒落な皿がたくさん並んでいた。その棚で白い皿の淵に赤い小さな花が散りばめられた、使い勝手の良さそうな可愛い皿を見つけた。

「このお皿、小さな花が可愛い」

 コレに盛る料理はオムライス、それともカツサンド、コロッケ……この皿なら、下手なわたしの料理でも映える。安物の皿しか持ってないから欲しい。

「リーヤ、それ気に入ったの?」
「はい、とても」

 でも、この皿の値段は可愛くない、高い。……明日は美味しいと有名なパン屋に行きたいし、食費をケチっても足らない、次のお給料がでるまでの我慢だな。

「リーヤは、そのお皿、買ってく?」
「欲しいけど……いまは持ち合わせがないから、また今度にします」

「だったら、取り置きしとく?」
「いいんですか?」

「うん、リーヤはお得意様だから特別ね」

(それじゃ、何枚買おうかな? 一枚、二枚? ……パンと主食を盛るのに二枚は欲しい)

「ミサさん、このお皿二枚、取り置きお願いします」
「わかった。この紙に名前、書いておいね」

「はい」

 ミサから渡された予約の紙に名前を書いた。

 ああ、早くお給料日にならないかな。

「ミサさん、よろしくね」
「はい、ご予約受けたわりました」

 ミサに手を振り店を後にして、三軒隣の鋳造屋の暖簾をめくり中を覗いた。

(あ、いた、いた)

 ドワーフのマカじーは奥の作業場ではなく、レジの前に座ってキセルを吹かしていた。

「マカじぃー、こんにちは」
「リーヤか、いらっしゃい。今日はなにがいる?」

「中古の木刀が欲しいの」
「それなら、ここじゃ」

 マカじぃーの店で中古の格安木刀をゲットして、家で持ち手にテーピングを巻いた。次に髪をあげて動きやすい格好に着替えて、買ったばかりの木刀を持って家を出た。

(お腹のお肉を減らすぞ!)

 北口の門を抜けてしばらく王都に続く道を歩き、左に逸れていくと開けた草地と小さな湖が見えてくる。久しぶりに訪れた湖は太陽の光に水がキラキラ光り、草花がいきいき咲いていた。

 ここは空気もよく、お昼寝にも最適なところなんだ。

「さて、(マイナス三キロ)と目標の為に努力しないとね」

「へぇ、なんの努力をするんだ?」

 背後からとつじょした声に振り向いた。
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