タクシーのついた先は芝公園にあるラグジュアリーホテルだった。
「ここのラウンジから眺める東京タワー、すごくてね。酒も料理もいけるし」
東京タワー……
よりによって、一番の思い出の場所に来ることになるなんて……
やっぱり、来たのは間違いだった。
そう思ったけど、もう遅い。
そのラウンジは最上階にあった。
間接照明の仄暗い空間のなか、テーブルに置かれたロウソクの炎がかすかに揺らめいている。
静かに流れるメロウでジャジーな音楽がよく似合っていて……
こんな店に来るのは初めてで、気後れを感じる。
一方の島内さんは慣れた様子。
この店にぴったりの大人の雰囲気を漂わせている。
わたしとひとつしか年が違わないのに。
この人、いったい今まで、何人の女性をここに連れてきたんだろう。
彼の整った横顔を盗み見ながら、そんなことを思ってしまう。