甘い支配の始まり《マンガ原作賞優秀作品》
=瑠璃子転落=






久しぶりに壱の部屋で飲んだな…

紫乃ちゃんのことはもちろん壱から聞いていた。何でも屋としてやっている時から、俺は動く前に依頼人や対象者を自分の目で確認するのが常だ。今回も動く前に壱とホテルへ向かって歩く紫乃ちゃんを一度見ていた。

その時の彼女は憔悴していたのだろうが、それでも暑くなってきた都会の淀んだ空気の中で、暑さに溶けそうでもなく灰色の空気に染まるわけでもなく、凛とした雰囲気を漂わせた子だと思った。

今日、初めて会った彼女は、いくら俺が口調や話すペースを変えてみても最後酔うまでは丁寧語を外すことなく、しかし時折出る関西弁と、時にきっぱりした言葉が人を惹き付ける子だという印象だ。基本的には穏やかだが自分の考えや意見をしっかりと持っているタイプ。話をしていて楽しい相手だ。

この子に爪を立てた女は許せないな。次に店に来たときから、華麗に転がり堕ちてもらおうじゃないか。この前の安っぽいワンピースを見る限り、思うほど金を持っていないのかもしれない。数ヶ月かかると考えていたが、案外早いかもな…

紫乃ちゃんに‘あかんやん’と言われたことを思い出しながらタクシーを降りマンションの部屋へ戻る。今夜は店へは行かないが、タブレットを立ち上げ店の状況は確認する。スタッフから数件の連絡メールが来ていたので対応したあと予約状況を見ると…町田瑠璃子…明後日お目見えか…ようこそ、転落の入口へ。
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