甘い支配の始まり《マンガ原作賞優秀作品》






「腹へった…」
「壱もトーストだけだったもんね」
「飯にするか。紫乃も少しは食えよ」
「うん。もう大丈夫。急いで食べたら午後出勤できるね」
「しーのーっ」
「…なーに?」
「どうしてそこで急いで食って頑張る?普通に食って仕事はできるだけでいいだろ?間に合いそうにないものは俺が間に合わせる。体調の良くない時に頑張るな」
「…」
「何が不満?不安?言っても大丈夫だ」
「…優しくしてくれて嬉しいんだけど…それはよくわかっているけど…」
「うん?」

俺が言わさなくても言い返してくれるようになるのはいつか…それも楽しみだ。

「風邪とか疲労ではないから…もう今は普通に動けるの。むしろ、もう忙しい方が忘れていられると思うから…午後出勤して仕事がしたい」
「ん、教えてくれて良かった。俺まだわからないから、こうして紫乃のことをひとつ一つ教えてくれ、な?」

起き上がりソファーに凭れて座る彼女の手を握って額をコツンと合わせると

「ゆっくり立って。何食う?」

手を繋いでキッチンへ行く。

「冷やしうどんにする。壱はご飯付きやね?」
「ああ、俺は定食で」

社宅の住人紫乃が今日、俺の可愛らしい恋人となった。
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