甘い支配の始まり《マンガ原作賞優秀作品》





「今日もうまいな、紫乃」
「それ、壱さん作ですよぉ?ふふっ、美味しいどんぶりだね」
「俺、和食は作ったことなかったから紫乃先生に言われるままにやってるだけだぞ」
「もうレパートリー増えたんちゃう?」
「増えたな。30過ぎてからの成長期は楽しい…ん?今のフレーズでブログ書くか…‘30過ぎてからの成長期は楽しい’いいタイトル」

本当に楽しそうな壱との食事は美味しい。二人で話をしていると、こうしてブログの題材を口にすることがある。でもここのことは全く関係ない内容がブログにアップされる。話をしているとちょっとした思いつきがあるらしい。今のもタイトルはそのまま使って、内容は全然違うものになるのだろう。彼は身近なことを法科出身というのを活かして、ただの雑談で終わらない内容に仕上げる。それが多くの読者をキープしている秘訣だと思う。私が初めて目にした‘シェアレンティング’についても、今思えば法科出身ならではの着眼点だったと思う。

「…紫乃?聞いてた?」
「ごめん…壱のブログのこと考えてた」
「俺のことならいい」
「何だった?」
「今日から俺のベッドで一緒に寝るぞ」

ぽちゃ…

「あっ…」

お箸で摘まんでいた豆腐が汁にダイビングしてTシャツワンピースの胸元に汁がはねた。
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