甘い支配の始まり《マンガ原作賞優秀作品》
その耳も首もとも隠すように俺のマフラーをぐるぐると巻きつけてやると
「ふふっ…壱の匂いに包まれた」
マフラーの中から言う紫乃をドアへ促しながら荷物を持つ。
「そのまま帰るぞ」
「うん…同じ匂いだね」
「それもエロい発言だな…そそる」
「何を言っても…だよね?」
「紫乃が可愛らしいせい」
片手に荷物、片手は紫乃と繋ぎ、紫乃が部屋のドアを開ける。静かな館内を歩きながら
「来年のクリスマスイブも同じ部屋を取ったから」
と言うと、紫乃がエレベーター前で固まった。
「うん?下、押して」
俺の声にエレベーターのボタンを押した彼女が俺を見上げる。
「いつの間に?」
「紫乃が意識飛ばしている間に」
「…」
エレベーターが到着し扉が開くと、正面に見える鏡にまた赤くなった紫乃が映る。半分顔が隠れているのに分かるほど赤いって…慌てて鏡から目を逸らしフロント階のボタンを押した彼女の額とこめかみ辺りにチュッ…チュッ…と音をたて唇を落とした。