甘い支配の始まり《マンガ原作賞優秀作品》
雪乃誕生





翌年1月11日、紫乃の21時間の激闘の末‘雪乃’が生まれた。

紫乃に似て、紫乃の血が流れて…そりゃ可愛いが、もう紫乃に出産はさせたくない。もっと楽に出てこいよ。紫乃が苦しむから絶対にもう子どもはいらない。

「予定日から遅れたと思えば‘イチ’で揃えたんだね、雪乃」

明日退院という紫乃の病室には、小さなベッドに雪乃が寝ている。その子に囁き声で話し掛ける紫乃に見とれていると…コンコンコン…控えめなノック音がした。俺がドアを開けると

「今、大丈夫?壱、おめでとう」
「どうぞ」
「紫乃さん、おめでとう。ここ、光里と同じ部屋だね」
「ありがとうございます。そうなんです。私も年末にここで光里さんと聖斗くんに会ったからちょっと嬉しい。お元気にされてますか?」
「うん、元気にきっちり3時間授乳奮闘中」

12月26日に父親になったばかりの聖さんが来た。

「女の子だよね?名前は?」
「雪乃です」
「ゆきはsnow?で、紫乃さんの‘乃’?」
「はい」
「雪がちらつく時だったもんな…」

そうなんだ。‘ゆきの’ということと‘乃’は決めていたが‘ゆき’の字はいくつか候補があるままだった。だが、日本列島中が寒波に襲われここでも2日間雪が降ったり止んだりする中生まれた女の子…それで雪乃に決めた。

「聖さんと壱はパパ友ですね?私も妊娠中に何度か光里さんに会わせてもらっていて心強いですし」
「光里も同じこと言ってたよ」

パパ友であろうがママ友であろうが、そんなことはどうでもいい。穏やかに微笑む紫乃が今日も可愛らしいことだけで俺は満足だ。
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