甘い支配の始まり《マンガ原作賞優秀作品》
「そうなんや…うーん、そうやね…無理かな」
話をするうちに、紫乃の関西イントネーションが強まるところから電話の相手が花園の姉か兄、もしくは大阪の友達だと察する。
「うん、連絡してくれる?…わかった…うちにも来て…うん」
紫乃の声を聞きながら眠る雪乃を覗いて紫乃に大丈夫だと手で合図を送ると、紫乃がスマホを耳に当てたまま無敵の微笑みを返してくる。しばらくして電話を終えた紫乃が
「おかえりなさい、壱」
そう言うと
「わっ…また電話?」
すぐに
「もしもし?…うふふ…こんばんは、久しぶり」
と始まった。今度は誰だ?と思う俺の耳に
「ひゃぁ…ぁん?」
どっから出てるんだという紫乃の声が届き、急ぎ録音する。
「赤ちゃん?…赤ちゃん?…おめでとう…で、いいんだよね…真麻ちゃん?」