甘い支配の始まり《マンガ原作賞優秀作品》





ここへ来てからは長谷川さんのブログを読むので、そこに出てきた‘何でも屋’についても覚えている。お友達だという、その本人の特定はできないようにしながらも、実際にあった面白い依頼について、いくつか紹介していた。なぜ今?

「紫乃が部屋から持ち出したいものを、そいつに持ち出してもらおうかと思うが…どうだ?部屋の解約までも依頼すればやってくれるだろうし」

そういうことか。引っ越しは絶対だよね…征二と瑠璃子のどちらもがよく来ていた部屋には住めない。1週間のホテル住まいの間に部屋が探せなければウィークリーマンションか…考えないと。いろいろ買い替えも痛い出費だけど、征二の気に入っていると言ったものや瑠璃子とお揃いの細々としたものも見たくもない。

「お願いしたいです」
「了解。解約までいいか?そいつにできないことは孝市に動いてもらう」
「北川先生まで…」
「もしもだ。多分何でも屋が何とかする。すぐに依頼する。紫乃は持ち出す物をリストアップしてから買い物に出られるようにしておけよ」

そう言うと長谷川さんは何故か上の自宅へと行ったようだ。ここのパソコンでできないことがあるとは思えないけど…捨てられないものは兄が買ってくれたカシミアのコートと姉が買ってくれたバッグ。それ以外は思い入れのあるものではない。デパート勤務期間に好きなブランドで買った服が数点あるけど、瑠璃子が同じ物を買っていたからいらない。

長谷川さんを待つ間に、また瑠璃子から

‘完全無視で傷心アピール?’

とメッセージが来た。電源を切ろうかと思った時

「どうした?また?」

長谷川さんに聞かれ頷く。

「それ拒否せず全部残しておくから。何かの時のために。新しいスマホを今すぐ買ってやるからな」
< 43 / 348 >

この作品をシェア

pagetop