真意がわからない以上、この人のものにはなれない。もとから天ケ瀬丞一は世界が違う人なのだ。子どもの頃からそう思ってきた。
義兄の結婚相手は、天ケ瀬に利益のある人でないといけない。義父だったそう望んでいるはず。

「お兄ちゃんにはもっとふさわしい人がいる。私みたいな何も持っていない女じゃ駄目だよ」
「気にしなくていい。ぼたんはそのままでいい」
「お父さんも天ケ瀬家の親戚の人たちも納得しない」

兄は数瞬黙り、それから私の耳朶に唇を押し付けた。その感覚に身体がびくんと跳ねて身をすくめてしまう。

「ぼたんの口から聞かせてくれ。俺を好きか?」

ずるい。この人は私の気持ちを知った上で、こんな追及をして完全に逃げ場をふさぐ気なのだ。
どうしてそんなことをしたいのか、私にはわからない。

「お兄ちゃん、離して」

揺れる気持ちを律してはっきりと言い切り、たくましい身体を押しのけて部屋を出た。
自室に戻ると、ドアを閉め、そのままへたりこむ。
心臓が壊れそうに激しく鳴り響いている。

「嘘……お兄ちゃん、私のこと……」

嬉しい。正直に言えば嬉しい。夢みたいだ。
だけど、簡単に義兄の腕の中に飛び込んで行っていいの?
あれほど私を疎んじていたように見えた。今だって、本心が見えない。

義兄の行動にはすべて理由がある気がする。それすら知らずに、安易に身を任せられない。
そもそも、結ばれるはずのない身分差は横たわったままだ。

もう何も考えられず、私はベッドにもぐりこんだ。