義兄の甘美な愛のままに~エリート御曹司の激情に抗えない~
「おまえを面白く思わない人間は多くいる。実家に住むのは肩身が狭いだろうし、かといってひとり暮らしは危ない。おまえに何かあれば天ケ瀬家の威信に関わる。だから、俺が同居すると言っているんだ」
「でも……」

お兄ちゃんこそ、私が妹であることが嫌でしょう?

先に続く言葉は心の中でしか言えなかった。彼は義理の兄妹になった頃から私に格別に冷たい。嫌われているとしか思えない態度をずっと取られていた。

だからこそ、遠方の高校に進学し、七年もの間離れて暮らしていたというのに。
大学の卒業と都内での就職が決まった頃、義兄は金沢の私の元を尋ねてきて言った。『卒業後は俺と同居する』と。

一番の理由は私の身の安全のためだそうだ。
天ケ瀬グループはフードサービスを中心とする巨大企業である。社長で義父の泰作(たいさく)、後継者の丞一の弱みを握るために、義理とはいえ家族の私が利用されてはならないと言う。

『でも高校も大学も危険な目には合わなかったよ。これからもお父さんとお兄ちゃんに迷惑をかけずに生きていける』

私は必死に説得した。義兄と暮らすなんて心が持たない。
しかし、義兄は取り合ってくれなかった。
『今まではおまえが気づかないだけで、周辺の監視をさせて安全を保っていた』などととんでもないことをさらりと言う。
私は気づかないうちに彼の手配した人間に監視されていたらしい。
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