義兄の甘美な愛のままに~エリート御曹司の激情に抗えない~
『都心部は人も多く、誘惑や危険も多い。おまえのためじゃない。天ケ瀬のためだ。実家に連れ帰られないだけ感謝しろ』

義兄の冷たい口調に、私は虚しく寂しい気持ちになった。彼は同居したくてするわけではないのだ。義妹という厄介な存在を、利用されないために同居するのだ。

心が持たない。
その理由は私が幼い頃から天ケ瀬丞一を好きだったから。

義理の兄妹になって、嫌われてもまだなお、彼を慕っている。
七年間も離れて忘れようと苦心していたのにできなかった。これから、一緒に暮らしたらどうなってしまうかわからない。恋心を押し込めて、私を疎ましく思っている義兄と暮らすなんて、想像しただけでつらい。


「……おい、ぼたん」

呼びかけられて、私ははっと顔をあげた。ホテルの一室、パーティーの後、引っ越しは明日。現実に引き戻される。

「疲れているんだろう。さっさと休め」
「はい」
「明日の夕食は一緒に取るぞ。手配済みだ。おまえは何も用意しなくていい」

義兄はそう言って、部屋を出て行った。ひとり取り残された私は、若緑色のドレスのままその場にへたり込んだ。
パーティーは疲れた。だけど、明日から何倍もの精神的負担を味わわなければならない。
義兄とふたり暮らし。
無理だとわかっているのに、昔の記憶をたどって優しくされたいと願ってしまう。浅ましい心が私にある。ずいぶん昔、彼は私に優しかった時期があったのだ。しかし、今はもう遠い過去。

「お兄ちゃんと暮らすなんて……苦しいよ」

呟いて、私はうなだれた。

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