雨上がりの景色を夢見て
第8章 自分の中の宿題
「着いたよ」

マンションの駐車場について、高梨先生が車のエンジンを切る。

シートベルトを外そうと、膝の上のケーキの箱を支えながら、片手でシートベルトに手を伸ばそうとした。

だけど、私より早く、高梨先生がベルトを外してくれて、私の体がシートベルトの締め付けから解放される。

「…ありがとうございます」

「いいえ」

高梨先生の顔が近くて、ドキッとする。

「…ちょっとだけ、いい?」

「えっ?」

私が答える前に、高梨先生の顔がさらに近づいた。恥ずかしさで思わず目を固く閉じると、おでこの上あたりの髪の毛に、高梨先生の口元が軽くふれ、すぐに離れた。

「…いい匂いがする」

「朝、シャワー浴びてきたから…」

そう答えると、私の髪の毛に手が触れ、前髪を流す。高梨先生の触り方はいつもとっても優しい。

「そっか」

私を見つめる高梨先生の瞳は茶色がかっていて、とっても澄んでいる。夏奈さんと同じ色の目。

高梨先生に大人の余裕があるからなのか、一緒にいると、自分がとても子どもっぽいと感じる。

「行こうか」

きっと私の顔は熱を帯びていて赤くなっているはずだけど、高梨先生はそのことには触れず、優しく微笑んで車を降りた。





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