雨上がりの景色を夢見て
母だけは、

「あらあら…」

と呆れた様子で仁さんを見る。

「お母さんからメール貰って、14時まで中抜けの休みをもらってきたよ」

そう言いながら、お母さんの隣に座った仁さんは、高梨先生をじっと見た。

「雛さんの、お、お父さんですか?」

「ええ。初めまして、雛の父です」

ネクタイを軽くゆるめた、凛とした表情の仁さんの口から、私の名前が呼び捨てされたことにとても驚いた。きっと、私が知る限りでは、初めてだと思う。

「もう…来るの早いわよ…」

母は、きっと仁さんがメールを見たら、帰ってくることを予想していたのだと思う。

「初めまして。高梨夏樹と申します。雛さんとは…結婚を前提としてお付き合いさせていただいています」

あらためて、仁さんにも挨拶をする高梨先生。仁さんの眉毛がぴくっと動いたのが分かり、私達の間に緊張が走った。

「結婚…」

さらに、仁さんの呟いた言葉に、もしかしたら反対されるかもしれないという不安がよぎる。

隣の高梨先生がすーっと息を吸ったのが分かった。









「雛さんを…僕にください」







静まり返ったリビング。一瞬だったけれど、とても長く感じた。







「…反対する理由がないよ」



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